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第二回:変化球を見極める

・球種がわかれば、試合が見えてくる
キビタ:野球を見ていくうえでネックになるのは、ピッチャーの球種がよくわからないことだと思います。
久保:ストレートとカーブはすぐわかるけど、ボールの軌道だけを見ていても、なかなか判別しにくい球種もあります。あとはスピードガン表示を頼りにするか…。でも、そのうち面倒になって「全部スライダーでいいんじゃないの」と投げやりになったら、もう終わりです。ただ打った、投げたの繰り返しになって、試合に入り込めなくなります。
キビタ:球種がわかれば、バッテリーがどのように打者を打ち取ろうとしているかが見えてきます。前回に「ボールだけを追いかけない」見方をお話ししましたが、球種の判別方法でもこの考え方が役立ちます。
久保:ボール以外のどこを見ていけばいいでしょうか?
キビタ:キャッチャーの構え、捕り方をよく見ていれば、かなりの確率で球種がわかるようになります。これから紹介するのは、データスタジアムにいた行木茂満さん(現・楽天スコアラー)から教わった、球種を判別するための方法です。この考え方さえわかっておけば、球種を推測しやすくなると思います。

・ボールよりも、キャッチャーを追え
キビタ:それでは中日の川上憲伸の映像をごらんください。川上はボールを動かすのが得意な右投手。球の軌道だけを見ていても球種がわかりにくいピッチャーです。そこでカギを握るのがキャッチャーの動き。谷繁元信の構えた位置やミットの動かし方に注目してください。

――キャッチャー谷繁、左バッターの内側に構えた。ピッチャー川上、投げた。谷繁捕った。内角ひざ元、球速は142キロです。

キビタ:捕球した直後の谷繁の姿をよく見てください。ここで球種がわかるヒントが出てきました。キャッチボールでもなんでも、野球選手は体の中心でボールを捕るという習慣があります。
久保:よく「相手の胸に投げなさい」なんて言いますよね。
キビタ:キャッチャーの場合は、体の真ん中でストレートを捕球します。そこで谷繁のミットを見てもらいたいのですが、体の中心よりも少し左打者寄りになっているのがわかりますか? こういう動きをしている場合は、スライダー、カットボールの可能性が高いと言えます。この場合はおそらくカットボールでしょう。すべてのキャッチャーがそうとは言い切れませんが、こういった推測が成り立ちます。
久保:同じ内角の球でも、ストレートだとどうなりますか?
キビタ:キャッチャーはもっと打者寄りに構えますね。そしてミットは体の中心になります。次の映像を見てください。

――次の投球。キャッチャー谷繁、真ん中に構えている。ピッチャー川上、投げた。真ん中低め、ちょっと沈んだか? 137キロ、少し低めに外れました。

キビタ:ここでのキャッチャーの構え、どうですか? 体の中心にミットを構えて、そのまま捕っています。球速は初球のカットボールより遅いですけど、これはおそらくストレートです。ただ川上憲伸は少しずつ握りを変えてボールを動かしてくるので、球筋から見てもきれいなフォーシームではなさそうです。ツーシームだと推測できます。
久保:補足説明ですけど、ボールが一回転する間に、ボールを横切る縫い目が4回見えるのがフォーシーム。バックスピンのかかったきれいな真っすぐです。ボールが一回転する間に、ボールを横切る縫い目が2回しか見えないのがツーシーム。真っすぐの軌道から少し動きます。
キビタ:バッテリーのやり取りからすると、谷繁のサインはストレートだけで、川上が状況に応じてフォーシームかツーシームかを選んでいるんでしょうね。
久保:シュートの場合はどうですか?
キビタ:では、シュートの映像も見てみましょうか。

――キャッチャー谷繁、右バッターの懐寄りに構えた。ピッチャー川上が投げた。内角、ボールが食い込みながら少し沈んだか。谷繁のミットが寄る。バッター打った。ファウル。自打球が足に当たりました。

キビタ:キャッチャーのミットが少し右打者の方に寄りましたね。これでシュートだと推測できます。ストレートであれば、もっとキャッチャーが右打者に寄って構えますし、ミットをボールにかぶせるような捕り方になります。それから打球にも注目してください。自打球になりました。このように足元に転がったり、自打球になったりした場合は、シュートである確率が非常に高いと言えるでしょう。


▲投手から見た捕手。体の中心線上でミットを構えている(向かって右側)とストレート、体の中心線上からミットをずらして構えると変化球の可能性が高い。左打者よりに構えているこの場合は、右投手ならスライダー系の可能性が非常に高い、と推測できる。


・フォークと縦スラの見分け方
キビタ:続いての映像です。

――右バッターを打席に迎えて、キャッチャー谷繁、真ん中に低く構えています。ピッチャー川上投げた。落ちる球、谷繁、身を呈してボールをキャッチしました。球速は131キロです。

キビタ:落ちる球ですけど、球種はわかりますか?
久保:川上にはフォークもあれば縦のスライダー(いわゆる縦スラ)もあります。スピードもほとんど変わらないし、球筋だけではちょっと見分けがつきません。
キビタ:今のはフォークの可能性が高いですね。なぜなら、キャッチャーが真ん中に構えています。フォークは指の間ではさんで投げるので、左右にコントロールしにくい球種です。コーナーを攻めるよりも、真ん中あたりから落として、バットを振らせるボールでもあります。またキャッチャーの側にも、体の中心で捕って後逸を防ぎたいという意識が働きます。だからミットもほぼ体の真ん中にありますよね。キャッチングに自信のない選手だったら、捕球する前に少し腰が浮いたりします。
久保:これが縦スラだったら…。
キビタ:おそらくキャッチャーがもっとホームベースの外側に構えて、ミットも体の中心部から右打者の外に動いています。そういった細かい部分を見ていけば、縦スラとフォークとを見分けることは可能です。
久保:もちろん例外もありますよね。
キビタ:ここまでの説明は、みなさんにもわかりやすいように、キャッチャーごとの癖などを省略して一般化したものです。もちろん例外もありますし、キャッチャーによってわかりやすい人もいれば、見分けがつきにくい人もいます。
久保:球種がわかりにくいキャッチャーというのはどういう選手でしょう?
キビタ:ちょっとマニアックな話になりますけど、日本ハムのルーキー、近藤健介がマスクをかぶると、球種がわかりにくいんです。彼はキャッチングがとても上手で、横の変化球でも手先で捕りにいかずに、体の中心で捕球します。股関節が柔らかくてフットワークがいいから、そういう捕り方ができるんでしょう。横浜高から入って1年目から一軍でマスクをかぶれたのも、キャッチングの巧さがあったからだと思います。
久保:なるほど。球種の見極めから、キャッチャーのキャッチングにまで話が発展するんですね。次回は変化球の特徴をおさらいする予定です。投げ方からボールの軌道、使いたい場面などを整理しておけば、さらに高い確率で球種を判別できるようになります。

▲横浜高時代の近藤。キャッチングを武器に日本ハムの層が厚い捕手陣に挑戦する

※次回更新は1月7日(月)になります。


■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に活躍中。

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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