春。異動や進級、進学、就職の季節である。新しい環境になると、さまざまなことが頭に思い浮かぶ。今までとは考え方を変えなくてはならなかったり、今まで以上に結果を求められ慌てそうになったり、新しい役職で呼ばれることで照れくさかったり……。
そんなとき、プロ野球の監督たちの言葉を思い出すことで少しは救われるかもしれない。そこで今年から新たに監督へと就任した3人の監督の言葉を紹介したい。
社会人であれば上司、学生であれば上級生の立場になると、本人にその自覚がなくとも部下や下級生とは距離ができてしまう。いわゆる「壁」である。初めて上司になったときは、振る舞い方もわからず知らず知らずのうちにこの壁ができてしまうことも珍しくはない。
そんなとき、今シーズンからヤクルトで指揮を執る高津臣吾監督の言葉を思い出したい。
「壁はつくっちゃいけない。ぼくもわからないことはコーチや選手に聞くし」
高津監督は投手コーチ、2軍監督の経験があるとはいえ、1軍の監督は初めてのポスト。責任の比が大きく違う。もちろん選手との距離も段違いだろう。そこで壁をつくらず、自分から歩み寄ろうとする姿勢は見習いたいところだ。
もちろん、同じ立場になったとき、頭の中でこう思っている人は多いだろうが、言葉に出すのはなかなかに勇気がいることでもある。そんななか、高津監督は自ら発信した。壁をつくらずに選手やコーチの話に耳を傾けることで、チームがよい方向にまとまることを期待したい。
新しいポストに就いたとき、早く成果を出そうと焦ってしまうことが往々にしてある。ものごとには適切な順番やスピードがあるにも関わらず、である。前任者との違いを打ち出そうと、あるいは、自分の力を誇示するために。
もちろんうまくいくときもあるが、多くの場合そうではない。裏目に出てしまうのである。しかし、今シーズンから楽天を率いる三木肇監督はちがう。
「慌ててやってもいいことはない」
東京オリンピックの影響で例年より公式戦の開幕が早まる特別な年だが、紅白戦の時期をずらすことはしない決断をした。
昨シーズンも2軍監督としてチームに携わっていたとはいえ、選手たちの様子を1日でも早く確認したいはずだ。それでも今まで通りの準備を行うわけだ。
新しいポスト、例年と違う日程。それでもどっしりと構える。それくらいの落ち着きは持っておきたい。
新しい役職に就いたとき、主将やリーダーを任命されたとき、名前でなく役割で呼ばれるとなんだか照れくさい。時が経つことで慣れてくるものなのだが、最初はくすぐったいと思う人が多いと聞く。
それはプロ野球の監督でも同じようだ。プロ野球の監督は一般的に選手としてプレーした選手たちばかり。それこそ何万人もの観客の前でプレーしてきた経験がある。人に見られることに慣れているだけに、呼ばれ方なんかは気にしなそうな印象がある。
しかし、今シーズンから広島の指揮を執る佐々岡真司監督は昨秋のキャンプ時、素直にこう打ち明けた。
「『監督』と言われる響きに慣れていないので照れる」
選手として、コーチとして長年に渡ってユニフォームを来ている人物であっても、新しい役職で呼ばれると照れくささを感じるのである。
照れがあったとしても、「プロ野球の監督ですら照れるものなのだ」と思うことで少しは気が楽になるのではないだろうか。
しっかりと役割を果たせば、いずれ板についてくる。
文=勝田聡(かつた・さとし)