森脇浩司監督が機動力野球を掲げるオリックスは、走攻守揃ったハーフの高校生遊撃手を2位指名。高い身体能力を生かしたそのポテンシャルに迫る。
取材をしていて、「賢い選手だな」と何度も感じた。対応も誠実で真面目。相手の目を見て、一語一語丁寧に言葉をつなぐ。
−−どんな選手を目指している?
「自分でやると決めたことを最後までやりとおす選手になりたい。自分のなかでの目標設定をクリアできる選手になりたいです」
−−目標の選手は?
「イチローさん。ルーティンをしっかり持っているところを尊敬しています。自分がやることをきっちりと決めて、それをやっている。体のしなやかさや動かし方も、学んでいきたいです」
−−好きな言葉は?
「スティーブ・ジョブスの『stay hungry stay foolish』。常に、目の前のことに全力で取り組んでいきたい。1年生の時にこの言葉を聞いて、胸に響いたんです。すぐにノートに書き留めました」
「宗佑磨」の名前を初めて聞いたのは3年前。彼が鎌倉市立玉縄中で軟球を握っていたときだ。
横浜隼人・榊原秀樹部長から、「玉縄中にすごい選手がいた。お父さんはギニアの人。とにかく、身体能力がずば抜けている」と情報をもらった。当時は、ショート兼ピッチャーだった。
中3時、すでに180センチ近い身長があったが、体重は60キロ弱とひょろひょろ。高校入学後、体づくりに真剣に取り組むようになった。多い時で、小さめのおにぎりを15個も持参し、授業の合間と練習中にパクリ。ウエートトレーニングで筋肉も強化し、元々持っていた柔らかさに、力強さが加わった。
武器は50メートル5秒8の足と、ピッチャーとしても140キロを超える地肩の強さ、広角に打てるバッティングと、走攻守が高いレベルでまとまっている。
3年間見守ってきた水谷哲也監督は、宗の魅力をこう語る。
「魅力は対応力。守備ではイレギュラーにとっさに反応したり、バッティングでは低めの変化球に片手で対応したり、教えてもなかなかできないことをやってのける選手です」
印象に残るヒットが3つある。まずは2年春、桐光学園高・松井裕樹(楽天)との対戦だ。コールドで敗れたが、宗はストレートとスライダーをとらえて2安打。スライダーは追い込まれてから低めのボール球に崩されながらも反応し、片手一本でライトへ運んだ。
2本目は2年夏の横浜高戦で、伊藤将司から打った左中間への二塁打。実はこの大会、水谷監督から「横浜と戦うまでは引っ張れ」と打球方向を限定されていた。「宗は引っ張り中心。逆方向に長打はない」と、横浜高側に思わせるためだ。逆方向が解禁となったなかで、すぐさま結果を残した。
最後は3年夏の準々決勝、桐光学園高戦。アンダースロー・中川颯の遅いストレートを手元まで引き付けて、クルッと軸回転。ライトスタンドへ高校通算27本目となる、決勝ソロを放った。
いずれも内容の違うヒット。それだけに価値が高い。ただ強く引っ張るだけでなく、幅の広い打撃で好投手を攻略してきた。
ドラフト当日の記者会見では、母・ミカさんも同席し、さまざまなエピソードを語ってくれた。
「厳しく育ててきたと思います。小さい時から、人をうらやんだり、ケンカしたりするのが嫌いで、優しい子でした」
周りとは肌の色が違う。子供となれば、オブラートに包むことなくストレートに言葉にする。胸を痛めたのはミカさんのほうで、宗本人は愚痴を言ったり、弱音を吐いたことがなかったという。
「佑磨は注目されやすい境遇のなかで、やってきました。指名をいただきましたが、まだ何も始まっていません。プロになってからがスタート。しっかりと前を向いて、歩いていってほしいと思います」
宗曰く「厳しい母。水谷先生(監督)より怖いです。少しでも調子に乗るようなことがあったら、厳しく叱られていました」。
夏の大会直前に痛めたヒザも完治し、来年1月の自主トレに向けて、トレーニングの日々が続く。
「プロはそんなに甘い世界じゃないことはわかっています。今、自分ができる練習をしっかりとして臨みたいです」
送り出す水谷監督は「ここにきても、毎日成長しているのを感じます。まだまだ伸びる。いつか世界に羽ばたいてほしい」とエールを送る。
横浜隼人の校訓は「必要で信頼される人となる」。この校訓を胸に、プロの世界へ挑戦する。